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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い


先に結論を書くと、とても面白くて感動した本です。今月映画が公開されますが、出来が楽しみでもあり少し怖くもあります。

9.11の同時多発テロ事件で父親を失ったオスカー少年。1年たってもその傷はいえぬままだったが、ある日父親の遺品から、ブラックという名前がかかれた封筒、その中に入った一つの鍵を偶然見つける。鍵の秘密を探るためにニューヨーク中の「ブラック」という苗字をもった人間を尋ねるというのがメインのプロットです。そして、第二次世界大戦中のドレスデン空爆で深い心の傷をおった少年の祖父母の物語が同時進行します。

少年と祖父母の少し乾いていてユーモラスな語り口、過去や現代を行き来する視点 そしてドレスデン空爆の悲劇と、特に後半くりかえされる少年の口癖、どことなくカート・ヴォネガットスローターハウス5の雰囲気と似ています(おそらく意図的なものだと思います)。また、この小説はビジュアルライティングという手法で書かれていて、祖父の手記となる部分は、そのままに校正のあとが残っていたり、英語が苦手な祖母のタイプライターで打ち出された部分はとても読みづらかったり、連続パラパラ写真が載っていたりして、単なるテキストでは無い「本」を読む楽しさが味わえます。

この本ではドレスデンや9.11、かつてのヒロシマの悲劇がバラバラに語られます。これはそれぞれ別の背景を持った全く別の事件だけど、同時に歴史の中で必ず起きる普遍的な悲劇です。さらに少年と祖父、祖母の視点を通して、これらの歴史の悲劇が結局は1人1人の死によって構成されていて、個人的なものでもあること追体験します。この小説のテーマは現代の日本の僕らにとっても(去年の3.11の時に、残念なことに)身近なことになってしまった感じがします。

と、重くなってしまいましたが、とにかくこの物語の少年の語り口がものすごくユーモラスで、ありえないほどグッとくるのでその点でもオススメです。重力ピエロの台詞にあるとおり「本当に深刻なことは陽気に伝えるべき」ですね。

そして、ラストの連続写真をどうとるかは読者に委ねられていると思いますが、自分にとってはある種の開放感をもった素敵なラストだったと思います。(この小説のラストを文章ではなく写真で締める必然性もあったと思います)