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煙突の上にハイヒール

ハードSF作家の小川一水さんの新作短編集です。表紙は中村佑介さんのかわいいイラストでちょっと雰囲気ちがう。*1

煙突の上にハイヒール

煙突の上にハイヒール

内容(「BOOK」データベースより)
背負って使用する、個人用ヘリコプター。ネコの首輪につけられるような、超軽量の車載カメラ。介護用のロボットも、ホームヘルパー用のロボットも、少し先の時代には当たり前になっているのかも。あなたなら、楽しい使い方を思いつけますか?テクノロジーと人間の調和を、優しくも理知的に紡ぎ上げた、注目の俊英による最新傑作集。

どの短編も基本的なテーマは「秘密」だと思います。物語の登場人物は小さな秘密を抱えているけど、個人用ヘリだったり介護用ロボットといったSF的ガジェットと出会って、少しだけ変容して少しだけ前向きになっていきます。
本書はSFといっても完全に別の世界観を作り上げるようなものではありません。日常の中に一つだけ小さな嘘(みたいなSFガジェット)を忍ばせるだけでドラマが展開します。SFをあまり読まない人でも自然に読めます。藤子・F・不二雄先生の「SF=少し・不思議」に通じるものがありますね。
もちろんハードSFならではの考証もしっかりしていると思います。高分子ポリマー電池が実用化されれば、個人用電動ヘリぐらい造れるかもしれないです。乗りてー!!
個人的に面白かったのは「おれたちのピュグマリオン」。不気味の谷を越えるリアルな人間型介護ロボットが開発されたら?という話です。結末はかなりサラッとした感じで書かれているけど結構とんでもない。このオチをグロテスクだと思う人もいれば理想的と思う人もいるでしょう。(←いまこの文章だけ読んで思いつくオチとはかなり違うので本書を読みましょう)

あと、この短編集の最後の作品「白鳥熱の朝に」に出てくる新型インフルエンザ「白鳥熱」の描写がかなりリアルだと思います。空港での窓際検査をすりぬけ、夏に流行し、数千万人の感染者を出す新型インフルエンザ。去年書かれた話ですが今年の新型インフルエンザを経験した後ではなおさらです。詳しく書くとネタバレになりますが、このような感染爆発が起きたときに人と人とのかかわりはどう変容するか?ということについて考えてしまう作品です。逆にこの短編集からは分離して長編で書いた方が良かったのにと思いました。

普段SFを読まない人に読んでもらいたい作品です。

*1:しかし個人用背負い式ヘリのMewはこんな形はしていないはず。人が高速回転しちゃう。。