[book]ヴィクトリア朝時代のインターネット
19世紀にはテレビも飛行機もコンピュータも宇宙船もなかったし、抗生物質もクレジットカードも電子レンジもCDも携帯電話もなかった。
でもインターネットだけはあった。
- 作者: トム・スタンデージ,服部桂
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2011/12/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ちょっとSFめいた導入から始まりますが、この本は19世紀の電信ネットワークの発明から衰退までを追った一冊です。
電信は、依頼主が電信局でメッセージの伝達を依頼、電信局側でモールス信号に符号化して有線で伝達、届け先の電信局でモールス信号を聞き取ってメッセージに復号化し、最後に配達員が相手に届ける、という仕組みです。小さい頃エジソンの伝記なんか読んでた人はイメージしやすいかもしれません。これはプログラムやサーバやルータが行なっていることを人間がやっているだけで、情報の伝達の本質はインターネットの仕組みと似通っています。情報をデジタルな信号(モールス信号)で符号化して伝達するという意味ではアナログ電話より現在のインターネットに似ています。
この電信による有線ネットワークはあっというまに世界中の都市に張り巡らされていきます。(日本の幕末の頃には大西洋を横断する海底ケーブルがあったのですから結構驚きです)
いままで全く存在しなかった「瞬時に遠隔地まで情報をおくる手段」が発明されたことによって世界そのものが変わっていきます。
- 遠隔地における戦争やビジネスの迅速化
- 新聞社が新しいテクノロジーに危機感を覚える ← 定番!
- (メッセージの長さによって料金が決まっていたため)メッセージを短縮すための独特の略語文化
- (仕組み上、電信局のオペレータを経由するため)情報流出を防ぐための暗号化
- その暗号をやぶるのを楽しむハッカーの誕生(チャールズ・バベッジも趣味でやっていたらしい!!)
- 国中の電信局のオペレータ同士が暇な時間でおこなうオンラインチャット
- 顔も知らないオペレータ同士の結婚。
- 情報過多による回線の逼迫
- 電信ネットワークが世界を一つにつなぎ、平和がやってくると熱心に説く楽天家達の存在。
- etc.
インターネットによって起こった世界の変化とそっくりです。「19世紀末の人を20世紀末につれてきても、インターネットだけには感動しないだろう」とは作者の言葉ですが、、確かに既視感たっぷりですね。
ちなみに、このまま電信ネットーワークが発達して、電信フェイスブックや電信ツイッターが生まれ、極東の小国日本で志士たちがそれで情報を交換しあって革命が起きた!!みたいなことは特に無いです。*1
結局電信の仕組みは、電話網の登場によって20世紀初頭に一瞬で衰退してしまいました。この電話自体も電信の伝達手段を多重化するための研究から生まれた発明です。特定の支配的なテクノロジーが、次世代のテクノロジーを育て、それによって逆に滅ぼされるというお決まりの展開です。
最近では「フェイスブック等によるソーシャル革命が〜」みたいな浮かれた発言を見かけます。すこし前なら「ブログによって革命が起きる」という発言でしたね。これは作者によると「自分の世代が歴史の最先端に浮かんでいると考える、『クロノセントリシティー(chronocentricity)』とでも呼べる考え」であり、おそらく情報やメッセージの本質はプラットフォームによってそれほど変わらないのでしょう。
「賢者は歴史に学ぶ」はテクノロジーの分野でも同様なのだ! ということで、とてもオススメです!!
*1:SF小説のネタにはなりそう